“ちゃんとしたものを食べてほしい”という願いから生まれた「賞味期限2時間のクレームブリュレ」

Majisandの笹川さん

パティシエの待遇を、もっともっと良くしたい

− Majisandをオープンされるまでの、笹川さんのバックグラウンドを教えてください。

大学卒業後、イタリアンレストランで店長として働きました。親が食品製造の仕事をしていたこともあって、将来は自分で独立をして経営したいと思っていたんです。

大学4年生の時には、大学の近くでバーを開いて、卒業する時には後輩に経営を譲って…なんてことも。バーを経営するのも楽しかったんですが、今から13年前の20代の頃は、アルコールに対する世間の目が厳しくて。そんな時代背景もあったり、様々な場所で経験を積む中で「ケーキショップを経営するのもいいな」と思い、札幌市内に「Sweets Lab」をオープンしました。その後、ジェラート専門店「GELATERIA GELABO」、3店舗目に「Majisand」をオープンしました。

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− 2店舗目から専門店をオープンされたのはなぜですか?

パティシエの待遇について違和感というか、疑問を感じていたからです。実は、洋菓子業界では就職して1年後には7割のパティシエが離職しているんです。もちろんいろいろな形態のお店や企業があり、離職率の低い職場もあると思います。しかし、離職率の高さは日本全体の洋菓子のレベルを落とすことにもつながります。

まずは、パティシエの待遇を向上させることが大切だと思い、どうしたらその環境を作れるかビジネス書を読んで勉強しました。洋菓子業界全体のレベルを上げていくためには、やはりある程度の店舗数が必要です。そこで”どんな商品でもあるお店”ではなく、”一つのものを追求したお店”を増やしていく必要があるという仮説にたどり着きました。

− 「ちゃんとしたものを出したい」という思いの強さは、どんなところから来ているのでしょうか?

「ちゃんとしたもの」って間違いなく美味しいんですよ。例えば、ちゃんとしたジェラートってめちゃめちゃ美味しい。それは、原料であるフルーツは生のものを使い、量もしっかりと入れるから。原価や手間とは相反しますが、原材料の美味しさをしっかり活かすことで美味しくなります。ただ、見た目では原料のこだわりまでは分かりにくいかもしれないので、原料一つ一つにこだわったスイーツはすごく美味しいので、ぜひ食べてほしいです。

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▲ チョコは乳製品不使用

それに、ちゃんとしたものを出すことは働く人のモチベーションも上がるし、仕事に対する誇りも生まれますよね。そういった良い循環をつくっていきたい気持ちはありますね。

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ちゃんとしたものは、美味しい

− Majisandのクレームブリュレは、カリカリ感とトロトロ感の絶妙な対比が特徴的ですよね!

食感や香りなど食べ物の中に対比があった方が美味しいと思っているので、そのバランスを大切にしています。これはケーキショップやジェラートショップでも大切にしています。

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− 牛乳や卵にもこだわりはあるのでしょうか?

牛乳は「特濃」といわれる脂肪分が高いものを使っています。牛乳と卵、どちらも北海道産で新鮮なものを選んでいます。

− 生クリームと牛乳のバランスはいかがですか?生クリームが多いとコクが出て、牛乳が多いとあっさりとした味わいになると思うのですが…。

生クリームは多めだと思います。牛乳も脂肪分の高いものを使っているので、やはりコクが出ます。食べ終わった後の満足感を大切に、一つで完結するようなイメージでバランスを考えています。

− カラメルの厚さも、薄すぎず、厚すぎず。絶妙さを感じました。

カラメルが厚すぎると唇に刺さって怪我をしてしまったりするし、食感という意味でも表面にまぶす砂糖の量も気をつけていますね。香ばしさと色味を出したいので、焦げるギリギリのところを攻めているかもしれません(笑)

ここでしか味わえない「ブリュレソフトクリーム」

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− ソフトクリームが販売している期間にしか味わえない、Majisandならではの「ブリュレソフトクリーム」がありますよね。

この発想に至ったのは、イタリアンレストランで働いていた時にスタッフが、アイスクリームディッシャーでクレームブリュレにアイスを乗せて食べていたのを思い出したんです。それがすごく美味しかったのでメニュー化しました。やっぱり夏場は注文が多くなりますね。

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− ソフトクリームにもこだわられているのですよね。

ジェラート専門店「GELATERIA GELABO」のジェラート職人が、Majisandのためだけに手作りした特別なソフトクリームです。

機材にもこだわっていて「ソフトクリーム界のフェラーリ」と称されるイタリアのカルピジャーニ社のマシーンを導入しています。一般的な機材と大きく違うのは、含まれる空気の量を調節できるところ。

70%まで空気の量が調節でき、Majisandでは50%に設定しています。ソフトクリームらしさを大切にしながら、素材だけに頼らず口当たりにもこだわっています。

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▲ オリジナルの紙箱は、開くとカラフルなデザインが可愛く、手土産にも人気です

なければつくる。新しい価値を生み出す

− 今後、お店で新しく商品を出される予定はありますか?

新しいフルーツサンドは常に考えています。フルーツ屋さんとよく相談していて、見たことのないような面白いフルーツを使ったフルーツサンドを提供したいと思っています。それから、実は新しく2店舗をオープンします(笑)

− に、2店舗!?

まずは「SOIL CHOCOLATE」という、Bean to Bar Chocolate専門店をオープンします。もともと手がけたいと思っていたんですが、これも「欲しいチョコレートがない」というところから発想を得ていますた。すでにある店舗でも自社で作ったチョコを使えますしね。

素材は今までと同じようにこだわり、香り、口当たりまで考えたチョコレートを作ります。産地から直接カカオ豆を仕入れて、お店で焙煎・粉砕・コンチングします。カカオが60%から65%くらいの比較的甘みのあるチョコレートも販売する予定なので、手に取りやすく、日常的に食べていただけるようなものにしていきたいですね。

− とても楽しみです!チョコレートの次はどんなお店を出されるのでしょうか?

今年の11月には、お餅屋さんをオープンする予定です。

− 洋菓子から和菓子となると、今までとは全く違う感覚なのでは?

どちらもお菓子であることには変わらないですし、やっていることは一緒で、新しい価値を作っていくことだと思っています。

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イタリアン、ケーキショップ、ジェラート…。これまで笹川さんが関わった経験が、「Majisand」には詰まっていました。そして、これからもチョコレート専門店やお餅屋さんと、新たな価値が生まれようとしています。それぞれのお店で働くパティシエの皆さんや素材のコラボレーションによる化学反応も、とてもワクワクします。

笹川さんの言葉を借りながらMajisandのクレームブリュレを一言で表すと、「ちゃんとしたクレームブリュレ」。

「ちゃんとする」という言葉には、しっかりとする、堂々とする、立派である、まともである、といった意味があります。笹川さんの「ちゃんとした」に込められているのはきっと、笹川さんご自身、そしてパティシエの皆さんが、胸を張って、誇りを持って、勧められるものであることなのではないかと感じました。

店内には立ちながら食べられるイートインスペースと、店外にはベンチもあるので、暖かい日は風を感じながらクレームブリュレを味わうのも気持ちが良くてオススメです。「ちゃんとしたクレームブリュレ」を味わいに、Majisandに足を運んでみてはいかがでしょうか。

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ABOUT US

江川 南
RESUPPORT 代表 / デザイナー 「地元のカルチャーを守り、生み出す」をテーマに、生まれ育った札幌で活動するフリーランス デザイナー/コーディネーター。札幌や北海道のカルチャーを支えている中小企業の会社案内やフライヤーをはじめ、WEBサイトなどのブランディングデザインに携わる。おいしいものを食べることが大好き。趣味は旅先でお茶を買うこと。漫画と雑誌を読んでいる時間が至福の時。旅、音楽、ファッション、映画、本、建築、まちづくり、スタートアップなどが関心分野。